「Motto Good Day! ―重症筋無力症(MG)と生きる私らしい明日のために」Vol.4では、二児の母であり、現在はコーチング事業に携わられている森口貴美さんに、日常のつらさや困りごと、家族の支え、現在の活動などを教えていただきました。
森口さんが複視や脱力感をおぼえ、近所の眼科を受診したのは2003年冬のことでした。
その時は目に異常は無いと言われましたが、その後に複視が頻繁におこったため再度眼科を受診すると、脳神経内科を紹介されました。そこでようやくMGであると診断されたのです。森口さんはそのとき、医師からインターネットに出ている病気の情報をプリントアウトしたものを渡されます。
「そこに『生存率』と書いてあったんです。私は治る病気だと思っていたのですが、その文字を見た瞬間、そうか命に係わる病気なのかと動揺しました」と森口さんは当時を振り返ります。
実際に、日常生活を送ることが難しいほどのさまざまな症状が1~2年続き、もう普通の生活には戻れないかもとあきらめかけていたそうです。
2005年頃までは入退院を繰り返し、1日のほとんどを自宅のベッドで過ごす日々を送りました。当時は、特に4つの症状に悩まされていたそうです。
一つ目が、「嚥下障害」です。飲み込みがむずかしく、体調が悪いとプリンやヨーグルトなどしか食べられなくなるといいます。「水を飲みこめず鼻から出てきてしまったことがありました。また、友達と喫茶店でカットステーキを食べようとしたら、一口サイズを半分にしても飲み込めず、喉に詰まってしまったんです。最終的にはなんとか飲み込めましたが、とても焦りました」長い麺類は飲み込みづらく今でも苦手だそうです。
二つ目が、「呼吸障害」です。頭の位置が低くなると息が苦しくて眠れず、症状が酷いときはベッドで眠れませんでした。
呼吸が止まり、このまま死んでしまうのでは?
「テーブルの上に未使用のトイレットペーパーを置き、それを枕にして座ったまま寝ることもありました。本なども試したけれど硬くて、トイレットペーパーの柔らかさがちょうどよかったんですね(笑)」寝たのか寝ていないのか分からないような夢うつつ状態と、“トイレットペーパー就寝”の日々が年の半分近くを占める状態が、1、2年続きました。
三つ目が、「構音障害」です。カラオケが大好きでしたが、MGになって声が出にくくなり、思うように歌えなくなりました。また、北海道で大きな地震があった時はとても怖い思いをしました。息子さんを呼びたくても大声が出ず、ご自宅の踊り場でしゃがみ込んでしまったとのこと。息子さんに助けられ事なきを得ましたが、一人だったらきっと逃げられない、死んでしまうかもしれないと思われたそうです。
四つ目が、「外見の変化」です。ステロイドの服用後、食欲が増して体重が増え、顔が大きくなり肩も張って、見た目が大きく変わってしまいました。知人から「顔が元の倍以上になっているね」と言われたときには、精神的にも落ち込み、人に会ったり外出するのが嫌になることもありました。
そんな森口さんを支えたのは、家族や友人たちでした。
「家事は同居していた母がやってくれたので私は恵まれていたと思います」
診断当時、中学1年生だった長女と小学5年生だった長男も、腕を上げられなかったり、階段を昇れない森口さんをサポートしてくれました。「娘が髪の毛を結ってくれたり、どうしても行きたいところに階段しかないときは、息子がおんぶしてくれたこともありました」
家族のサポートに頼る日々の中、森口さん自身は「なかなか母親らしいことができない。私が親でかわいそう」そんな気持ちが募り、子どもたちに謝ることもあったそうです。しかし、子どもたちからは「悪いことをしていないのにどうして謝るの?」と言われ、それからは、
「ごめん」ではなく「ありがとう」
森口さんは、そのように言葉を変えて子どもたちに気持ちを伝えるようになりました。そして、“明るくいればきっといいことがある”と家族で言いあい暮らしたそうです。
障害者総合支援法に、障害者手帳を取得できなくても指定難病でサービスが必要と認められた方は障害福祉サービスなどを利用できる制度があります。自治体によってサービス内容は異なりますが、北海道には障害者手帳がなくてもMG患者がヘルパーサービスを利用できる仕組みがありました。森口さんはこの制度もうまく活用されているそうで、「ぜひ、お困りの方は調べてみてください」とお話くださいました。
医師とのコミュニケーションは、患者の伝え方も大切とのこと。例えば新しい治療法を知った時などは、「この治療にしてください」ではなく、「こういう治療のことを聞いたんですが、私にあいますか?」と言うように心がけていたそうです。
MGの症状をコントロールして目指したい「マイゴール」を訊ねると、森口さんは笑顔でこう答えてくれました。
「就労継続支援A型の職員を経て、2016年に個人事業主になり、現在はイベントの企画・運営やコーチングなどの仕事をしています。『障害や病気があってもなくても気軽に話ができる場』というコンセプトで、障害のある人もない人もみんなでごちゃまぜになって交流するサロンです。これまでに道内で14回開催し、200人以上に来ていただきました」
主治医と相談して治療法を決めていく
MGの症状に悩む方へのアドバイスを聞くと、「主治医と相談して治療法を決めていくことは、自分の命を守ることにつながると思います。今は治療法も増えているので自分自身にあった治療にきっと巡り合えます」と、メッセージをくれました。
「難病になって不便なことはたくさんありましたが、優しい方たちのおかげで、難病にならなければ見られなかった景色や周りへ感謝できることに気づけました。全国に同じ病気で治療を受けている仲間がいます。あなたは1人ではありません。決してあきらめないでください。必ず笑顔で過ごせるようになります」
MGの症状や重さはさまざまですけど、MGの患者さんには、病気だからといって自分の可能性を狭めないでほしいなと思います。