「Motto Good Day! ―重症筋無力症(MG)と生きる私らしい明日のために」Vol.3では、南雄介さんと母親の淑恵さんから、治療をはじめ、つらかった経験や当時の思い、自分を救った考え方などを教えていただきました。
ファッションが好きで、大学卒業後はアパレル関連の仕事をしていたという雄介さん。服装のみならず、爽やかな笑顔も魅力的です。
雄介さんが目に違和感をおぼえたのは小学3年生のときでした。1つの物が二重に見える“複視”や、両目の向きが異なる“斜視”の症状がでたんです。まぶたも垂れ下がり左目はほぼとじた状態になったそうです。
かかりつけの眼科クリニックを受診したところ、「神経系の病気かもしれない」と大きな病院の眼科を紹介され、検査の結果、眼だけに症状が現れる眼筋型MGと診断されました。
淑恵さんは、当時どのような心境だったのでしょうか。
「初めて聞く病名で、しかも治るか分からない難病だとも聞いて、もうどうしたらいいのか、大きな不安と怖さで落ち込みました。夜も眠れず、毎晩パソコンでどうすれば病気がよくなるのか調べていました」
「片目をとじるほうが楽で、とじて過ごすことが多かったです。階段を早く降りられなかったり、体育の授業でボールが飛んできたときに距離感をつかみにくかったりすることはあったものの、生活に大きな支障はなく、周囲に何か言われることもなかったので、その頃はそれほどつらくはありませんでした」と、雄介さん。
「つらい」と感じるようになったきっかけは、5年生の春に始めたステロイドパルス療法だといいます。
「僕の体を心配した母が、感染症のリスクがある行動を制限するようになったんです。遊園地や映画館などの人混みに出かけること、体育の授業、運動部の部活動などは控えることになりました。
みんながする当たり前のことが、当たり前にできない
体育の授業を見学していると、見た目は元気なので『あいつ、なんでさぼってんの?』という目で見られるのがすごくいやで。薬の副作用で、顔が満月のように丸くなるムーンフェイスや毛深くなったことなど、見た目の変化を友だちにからかわれたこともつらかったですね。」
一方で、淑恵さんも母親として葛藤を抱えていました。
「当時の主治医からは『この病気は疲れると症状が現れる。運動などは控えるように』と言われていたので、体育の授業などは休ませる他ありませんでした。できれば参加させてやりたかったのですが、、、学校の行事のたびにどうしようかといつも悩んでいました」
やりたいことをさせてくれない淑恵さんに、雄介さんは今では言えないような暴言を吐いていたそうです。
「私は雄介を“病人”として見ていたんです。それを雄介は嫌がり強く反発していたんだと思います。そんな折、患者団体を通じてMG患者さんと話す機会があり、家族と患者本人の気持ちはまったく違うんだと分かったんです」と、淑恵さんは当時を振り返ります。
それから、淑恵さんは自分の考えを変えるよう努めたといいます。「雄介の気持ちをもっと早くから分かってあげたらよかったなと。私の親としての器が小さかったんでしょうね。反省しました」。一方、雄介さんは「当時は反発していましたけど、今では母がいろいろ調べて動いてくれていたことに感謝しています」と話してくれました。
雄介さんの心に変化があったのは中学生のとき。塾講師の言葉に励まされ、それが“人生の指針”になったのです。
「生きていれば何かしらつらいことはあるけれど、それを言い訳にしないという考え方をする先生だったんです。与えられた環境に対して文句を言うなら何かしろ、と。
大事なのは、どこにいるかよりも、その場所でなにをするか
そう思うようになって、自主的に、かつ社交的に動けるようになりました」
雄介さんは「できないことはあるけれど、自分を病気だと思って可能性を狭めるのはやめよう!」とギターなどの楽器を始め、高校では軽音学部に入りました。実は、ギターとの最初の出会いは「長く楽しめる趣味ができたらいいのでは」と思った淑恵さんからのプレゼントだったそうです。
現在、雄介さんはハウスメーカーで施工管理の現場監督を務めています。服薬も続けており、眼球の運動に少し制限はあるものの、日常生活で困ることはないといいます。
「病気は、走るのが速い・遅いとか、古文が苦手といった、その人の個性だととらえています。かつてやりたいことを制限されていたからこそ、仕事でもプライベートでも『やる』となったら本気でやりつくすところがあって、釣り、キャンプ、バイク、楽器、服…と多趣味で困っています(笑)。できることを精一杯楽しんでいきたいです」
大学時代から交際中の恋人とは、2023年11月に結婚する予定。恋人は「無理しないで」と体を気遣う一方で、MGを重くとらえ過ぎていないそうです。
「軽い感じで接してくれるので、僕も気が楽です。恋人のご家族にはMGのことをきちんと伝えるつもりですよ。情報をきちんと知っていただければ『大丈夫やな』と思っていただけると思います」
小児期発症のMGで悩んでいる患者さんやご家族へのアドバイスを伺うと「抱え込まずに、相談できるところにぜひ話してみてください」と、淑恵さん。また「お子さんが長い時間を過ごす学校の先生や保健室の先生と密に連絡を取ることが、お子さんにとって過ごしやすい環境につながるのかなと思います」とも教えてくれました。
雄介さんに、小学生の頃の自分に話しかけるとしたらどう声をかけるか、聞きました。
「『15年後は死ぬほど楽しいから、走り続けてがんばれ!』って言いたいです。」
可能性を広げるため、できることを探すことが大切
MGの症状や重さはさまざまですけど、MGの患者さんには、病気だからといって自分の可能性を狭めないでほしいなと思います。