重症筋無力症(MG)との日々の暮らしの中で気分が落ち込んでしまうことがあります。症状の見極め方、医師に話すタイミングについて考えてみましょう。
MGの症状を抱えながら生活することは大変です。人によっては、心の健康に影響を及ぼすこともあります1。MGが心の健康に及ぼす影響は人それぞれですが、MG患者さんの約3分の1がうつ状態を経験したことがあると言われています2。著名な神経筋疾患の専門医と公衆衛生の専門家に、うつ症状の見極め方や医師にどのように話をしたらよいかについて教えていただきました。
あなた、もしくはあなたの大切な人にうつの徴候がある場合は、できるだけ早く医師と連絡をとることが大切です。心の健康に不安を感じたり悩みを抱えた場合は、こころの健康相談統一ダイヤル(電話:0570-064-556)などにご相談ください。
うつ病とは?
うつ病は、考え方や気分、行動に悪影響を及ぼす気分障害のひとつです。悲観的な気分が2週間以上続く場合、それはうつ病の徴候かもしれません。うつ病は、日常生活に影響を及ぼす可能性があります3。
うつ病を認識する
MG患者さんの場合、うつ病に対処する上で重要な最初のステップは、その症状を見極める方法を知ることです。MGの症状とうつ病の症状には、いくつか共通点があります。MGと同様、うつ病の症状も重症度に幅があり、人によって程度が異なったり、時間によって変動したりします。MGと診断された後に、悲しくなったり不安を感じたりすることはよくあることですが、うつ症状が重度の場合やいつまでも続く場合は、対処方法を医師と相談することが重要です3-4。
うつ病は以下のような症状が現れる可能性があります3。
- 頻繁に不安や悲しみを感じる
- 絶望感を感じる
- 些細なことで不機嫌になる
- 罪悪感、無力感を覚えたり、生きる価値がないと感じたりする
- 趣味に興味がわかなくなる
- 疲労感がある、または体力が低下する
- 動作や会話が以前より遅くなる
- 落ち着きがなくなる
- 集中力や判断力が低下する
- 眠れない、または起きられない
- 体重と食欲が変化する
- 死や自殺を考える
- 原因不明の痛み、頭痛、消化器系の不調を抱え、改善しない
身体の症状と精神的な症状は重なり合い、互いに影響し合うことも多いため、どういった状態がその症状を引き起こしているか、判断が難しい場合があります。例えば、体重の変化、疲労感、動作や会話の遅さは、MGとうつ病のどちらにもみられる徴候です3-5。自分の症状に関する情報をできる限り医師と共有することで、あなたも、そして医師も症状の原因や治療方法への理解を深めることができます。
心の健康を医師に相談するためのヒント
心の健康について話すことは難しいことだと思いますが、医師とうつの症状について話し合うことは、うつ病に対処する上で重要な役割を果たすことがあります。
キラム氏は、自分の身体の状態を話すのと同じように心の健康についても医師に話すよう、MG患者さんに勧めています。
キラム氏は次のように語ります。「私は、心の健康がジムに行くのと同じように普通の関心事になることを願っています。つまり、身体的な健康に気を配るのと同様、心の健康とソーシャルヘルス(社会との健全な関わり)にも気を配るようにするということです」
主治医と心の健康について話すことは、心を普段の状態へ戻すのに役立ちます。うつ病を経験することは恥かしいことではありません。単にサポートが必要なだけです。
主治医と心の健康について話すことは、心の健康を普段の状態へ戻すのに役立ちます。うつ病を経験することは恥ずかしいことではありません。単にサポートが必要なだけです。 キャスリー・キラム(公衆衛生学修士)
『孤独とソーシャルヘルス』著者
MG患者さんを介護や支援している方も、医師とのコミュニケーションで重要な役割を果たすことができます。例えば、テレビを見る時間が増えた、以前は楽しんでしていたことにかける時間が減ったなど、大切な人の行動の変化に気づくことがあるでしょう。
ハワード医師によると、大切な人のこうした情報を医師に共有することで、心の健康を知る手がかりが得られます。ハワード医師は次のように話しています。「こういった変化は初期には分かりにくいものです。ですから、このような情報を共有してくださると、とても助かります」
医師と率直に話し合うことが鍵となります。あなたや大切な人がうつ病かもしれないと思ったら、できるだけ早く医師に相談してください。
「医師以外の人のほうが話しやすいならそれでも構いません」とハワード医師は言います。
うつ病の管理と治療
ハワード医師は、MG患者さんがうつ病と診断された際の、患者さんと医師の関係の重要性を強調して次のように話しています。
「何より大事なのが患者さんと医師の関係性です。生活の質に関する指標というものがあり、医師はこうした指標を使用しています。MG患者さんの診療で日常的に使用している医師もいて、ある程度の手がかりにはなります。ですが、もっと重要なのは、微妙な変化に気づける関係かどうかということです」
あなたの主治医は、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)など、うつ病を測定するための評価手法を使うことがあるかもしれません。このHAM-D質問表は一般的に使われている評価法で、うつ症状の評価に役に立ちます。ただ、医師とオープンな関係が築けていれば、何か見落としている問題が浮き上がってくることがあります6。
また、ハワード医師は、MGが治療可能で、診断されてからも生活の質を向上することはできるものの、実際には時間がかかるということを患者さんに伝えています。悲しみや動揺、恐れ、怒りはすべて、自分ではコントロールできない診断結果に対する自然な反応ですが、治療計画を立て、趣味を追求する方法を見つけたりすることで、MGを抱えていても生活に喜びを取り戻すことができるでしょう。
ハワード医師は次のように話します。「いつも、患者さんが楽しみにしていることや趣味を尋ねるようにしています。身体的に可能であれば、そうした楽しみを継続してもらっています。とても大きな気分転換になるからです。人によっては、単に外に出て散歩するだけでもいいのです」
さらにキラム氏は、MG患者さんは、うつ症状が慢性化したり、助けを求められないほど悪化してしまったりする前に、助けを求めるべきだと強調します。それよりも、そうなる前に、心の健康に対する専門的なサポートを常に探し求めることが健康によいと考えています。また、うつ病の負担を和らげるひとつの方法として、患者団体や患者支援グループに参加することも提案しています。