重症筋無力症とその発症の仕組みは?

2020年6月 | 4分で読めます

重症筋無力症の基礎知識

重症筋無力症(Myasthenia Gravis)は、略してMGとも呼ばれます。主に筋力が著しく低下する疾患です1-3。顔や眼の筋力が低下することが多く、初期症状としてまぶたが下がる症状がよくみられます。また、眼球を動かす筋力が低下して、ものが二重に見えたり、ぼやけて見える症状もしばしばみられます。筋力の低下が手足におよぶこともあります3,4。うまく笑えない、噛みにくい、飲みこみにくい、息がしにくいといった症状が出る場合もあります4,5。MGは複雑な疾患で、人によって少しずつ症状が違います。

MGは自己免疫疾患3,6

免疫機能に異常が生じて過剰に免疫細胞が反応することからMGを発症します3。MGは遺伝しない(親から子へ伝わることはない)と言われており、伝染することもありません7,8。家族内で複数の人が発症するケースもまれにみられますが、その理由は十分解明されていません9。年齢や人種にかかわらず発症しますが、20~30歳の女性と50~60歳の男性にやや多く見られます4

MGは難病の一つで、米国内の患者さんは3万1,000~6万7,000人程度にとどまります10,11。日本の患者さんは2万9,000人程度と言われています21。希な疾患であることから、症状があってもすぐにはMGと診断されず、患者さんがいらだたしい思いをする場合もあります。診断されたら、MGに詳しい医師――多くのMG患者さんを治療した経験がある脳神経内科医――に診てもらうと良いでしょう。

MGは、自己免疫疾患のひとつで、末梢神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)に障害が生じる疾患です3。免疫系が筋肉を攻撃するため、神経からの情報が筋肉に正しく伝わらなくなり3,12-14、筋肉が思うように動かなくなります15

MGの初期症状は、見過ごしてしまうこともあります。力が出ないのは睡眠不足だから、激しい運動をしすぎたから、食事に問題があるから、気分が落ち込んでいるから、などと自分で思い込んでしまうのです3

さらには、1日のなかでも時間帯によって筋力低下の症状にばらつきがあったり、症状が体の一部に限られることもあります3,16。人によっても症状は異なります16,17

MGにはいくつかのタイプがあります

MGでは抗体が大きな要因となります。血液中に含まれる抗体の種類によって、MGを分類することもできます。患者さんはMGと診断された時、自分がどんな種類のMG関連抗体をもっているか知ることができます。

日本では、MG患者さんの約80%が抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体、約5%が抗マスク(MuSK)抗体をもっています。それ以外のMG患者さんは抗体が検出されず、抗体陰性MGと呼ばれます3,13,14,18。抗LDL受容体関連蛋白質4(LRP4)抗体が検出される患者さんもいますが、本邦ではこの抗体はまだ正式なMGの病原性自己抗体とは認められておらず、現時点では抗体陰性MGに分類されます。

MGは、眼とまぶたを動かす筋力が低下する「眼筋型」と、全身の筋力も低下する「全身型」の2種類に大別されます3,17

MGは重症の疾患です。現在の医療では完治するのは難しいですが、症状自体は治療可能であり、症状を最小限に抑えたり寛解させることができます19。MGであっても、幸せな実りある生活を送ることができます。まだ医学的に解明されていないことが多く、課題はたくさんありますが、治療の選択肢はいくつかあります。また、MG患者さんのコミュニティ、専門医、そして、MGと歩む人生がより良いものになるよう支援する団体等からもサポートを受けることができます。

MG用語集:

MGを発症したときは、病気を知ることが力になります。全てのMG患者さん及び支援する方に知っていただきたい医学用語をいくつか紹介します14,19,20

  • アセチルコリン(ACh):神経と筋肉の情報のやりとりを助ける化学物質。体内で自然に合成される。
  • アセチルコリン受容体(AChR):神経から出たアセチルコリンを、筋肉が受け取るところ。
  • 抗AChR抗体:アセチルコリン受容体と結合する抗体。
  • 自己免疫疾患:免疫系が自身の細胞や組織を誤って攻撃する疾患。
  • 複視:ものが二重に見える。
  • 発声障害:声が出しづらい。
  • 構音障害:発音が不明瞭になる。
  • 嚥下困難:飲みこみにくくなる。
  • 増悪:再燃とも呼ばれる。症状の頻度が増したり、より重症になること。
  • LRP4:LDL受容体関連蛋白質4の略。アセチルコリンと同様に、神経と筋肉の情報のやりとりを助ける蛋白質。
  • MuSK:筋特異的受容体型チロシンキナーゼの略。
  • 抗MuSK抗体:MuSK蛋白質と結合する抗体。
  • 重症筋無力症クリーゼ:筋力低下の悪化により、挿管、または挿管を避けるための非侵襲的換気が必要となる状態。
  • 神経筋接合部:運動神経と筋線維が接する場所。この場所で、筋肉を正しく動かすための情報がやりとりされる。
  • 眼瞼下垂:まぶたが垂れ下がった状態。
  • 抗体陰性重症筋無力症:血液中に自己抗体を認めないタイプのMG。
  • 胸腺、胸腺摘除術:胸腺は免疫細胞を形成する臓器。この臓器を摘出する手術を、胸腺摘除術という。

  1. Douglas Harper. Myasthenia. Online Etymology Dictionary.
  2. Douglas Harper. Gravid. Online Etymology Dictionary.
  3. Gilhus NE. N Engl J Med. 2016;375(26):2570-2581.
  4. Mantegazza R, et al. Ann N Y Acad Sci. 2003;998:413-23.
  5. Stetefeld H, et al. Neurol Res Pract. 2019;1(19):1-6.
  6. Melzer N, et al. J Neurol. 2016;263(8):1473-1494.
  7. Ramanujam R, et al. Twin Res Hum Genet. 2011;14:129-136.
  8. Szobor A. Acta Med Hung. 1989;46(1):13-21.
  9. Salvado M, et al. J Neurol Sci. 2016;360:110-114.
  10. Phillips LH. Ann N Y Acad Sci. 2003;998:407-412.
  11. アメリカ合衆国国勢調査局「2019年の人口推計」
  12. Lindstrom JM, et al. Neurology. 1976;26(11):1054-1059.
  13. Hoch W, et al. Nat Med. 2001;7:365-368.
  14. Pevzner A, et al. J Neurol. 2012;259(3):427-435.
  15. Ruff RL, et al. J Neuroimmunol. 2008; 201-202:13-20.
  16. Gilhus NE, et al. Lancet Neurol. 2015;14(10):1023-1036.
  17. Hehir MK, et al. Neurol Clin. 2018;36(2):253-260.
  18. Vincent A, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1985;48(12):1246-1252.
  19. Sanders DB, et al. Neurology. 2016;87(4):419-425.
  20. アメリカ重症筋無力症財団「基本用語集」
  21. 難病情報センター(指定難病11重症筋無力症)

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